男性不妊症Male infertility
不妊症のカップルのうち、約半数に男性因子が関与しているとされています。
精子が精巣でつくられる過程になんらかの問題がある造精機能障害や、勃起・射精に問題がある性機能障害など原因は様々です。
不妊症でお悩みの場合は、ご主人の検査や治療が必要なことが多くあります。
※当院では、泌尿器科と連携して男性不妊症の治療を行なっています。
診察では問診、触診、視診のほか、精液検査を行います。
精液検査について
精液検査はWHOのガイドラインに準じて評価を行います。
精液検査の正常値(WHO2021年)
精液量 | 1.4ml以上 |
精子濃度 | 1ml中に1,600万以上 |
総精子数 | 3,900万以上 |
総運動率 | 42%以上 (前進運動率:30%以上) |
正常形態精子率 | 4%以上 |
精液の濃度や運動率を調べることで、
以下のような症状がわかります
乏精子症
精子の数が少ない状態。
基準をやや下回る程度ならタイミング法を行います。2000~500万以上なら人工授精、それ以下では体外受精、極端に少なければ顕微授精となります。
精子無力症
精子の運動率が悪い状態。
経過や状態により人工授精、あるいは体外受精、顕微授精を行います。
精子奇形症
奇形の精子が多い状態。
正常な精子を選び体外受精あるいは顕微授精を行います。
無精子症
精液中に精子が見あたらない状態。
精巣や精巣上体に精子が存在すれば顕微授精を行えます。(TESE参照)
ホルモン療法により成熟精子を得られるケースもあります。
精子について
精子とは遺伝情報を持った小さな細胞で、自分で泳ぐことができます。
精巣の中で平均74日かけて作られ、毎日1億2000万個も作られます。
一回の射精で射出された2~4mlの精液中に約3億個あると言われています。
しかし近年、偏った生活習慣により精子の数が減り、運動率が低下してきていると言われています。
精子の質を良くする為には
男性不妊の場合でも女性不妊と同様に、妊娠を妨げる要因になる生活習慣や体質は改善しておきたいもの。一度見直してみましょう。
- 健康的な生活
- タバコはやめましょう
- 心と体のストレスを発散しましょう
- 適度な運動を心がけましょう
- 健康的な食事
- 野菜や果物でビタミンの摂取を
- コーヒーは1日1~2杯程度に
- お酒は控えましょう
さらに、良質な精子をつくるには高温や圧迫に注意する必要があります。
精巣の温度は、体温より4~5度低く保たれており、精巣の温度が上がると精子を造る機能に影響し不妊になりやすくなります。
また、禁欲期間も1週間以上になると精子の質が悪くなるといわれています。
- 高温・高湿・圧迫を避ける
- 下着はブリーフよりトランクスを
- 熱い風呂や長風呂、サウナは控えましょう
- パソコンを膝に置いての作業は避けましょう
- きついズボンはやめましょう
- 禁欲期間は1~2日
- 少なくとも1日おきに射出することで質の良い精子が得られます
精子酸化ストレス測定について
酸化ストレスとは
酸化ストレスとは体内の活性酸素の産生が酸化を抑える抗酸化物質の働きを上回り、DNAやタンパク質など細胞を傷つけてしまう状態のことです。
精子も例外でなく、酸化ストレスはDNAの損傷(断片化)につながり、さらには着床率、妊娠率の低下や流産率の上昇などを招くと言われています。
測定方法
当院ではMiOXSYS(マイオキシス)という機器を用いて測定を行います。
精液の酸化還元電位を測定することで、通常の精液検査では測定することのできない精液中の酸化ストレスの強さを数値として見ることができます。
精液検査時のほか、使用する精液量がごく少量のため人工授精を行う際に併せて検査を行うことも可能です。
酸化ストレスが高いと診断されたら
精子濃度や運動率などに応じて今後の男性不妊の治療方法を判断いたします。
酸化ストレスにつながる生活環境の改善や抗酸化サプリメントの摂取によって酸化ストレスは減らすことができます。
当院では酸化ストレス値の高い患者様には人工受精を行う際、「MIGLIS(ミグリス)」という装置を用いて精子を集めることで、 精子へのダメージを極力少なくするよう努めています。(ミグリスについて参照)
精巣内精子回収法
(TESE:Testicular sperm extraction)または、顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE:microdissection TESE)
無精子症の男性不妊の方は、ご主人(夫)の精巣内の精子を手術により採取します(TESE)。陰嚢の皮膚を約1cm切開して精巣組織を一部採取します。この方法で精子が回収不能な場合は、顕微鏡下に精巣から精子を採取する手術に移行します(MD-TESE)。
当院では男性不妊を専門とする泌尿器科の専門医と連携し2022年9月よりMD-TESEを開始いたしました。麻酔もかけるのでほとんど痛みはありません。2-3時間の休憩の後帰宅し、翌日は出勤することができます。
ご主人(夫)の精巣から精細管と呼ばれる精巣組織を採取した後は、組織を培養液中でほぐし倒立顕微鏡にて精子の有無を調べます。
精子が認められた場合は凍結保存し、後日、顕微授精により卵子と授精させます。
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回収された精巣精子