矢野産婦人科

抗酸化ストレス療法Antioxidative stress therapy

酸化ストレスとは?

酸化ストレスとは、体内の活性酸素濃度が過剰になり、傷害から生体を防御する抗酸化防御機構が不足しバランスが崩れた状態のことです。
過剰な活性酸素は、体内の様々な細胞を傷害し、不妊症をはじめ、がん・生活習慣病になるなど様々な疾患をもたらす原因のひとつと考えられています。

活性酸素 酸素が外部からの様々な刺激で活性化された状態のこと。
普段は体内で細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、過剰に産生されることで細胞を傷つけたりしてしまいます。
抗酸化防御機構 活性酸素の産生を抑制したり、生じたダメージの修復・再生を促す働きのこと。
活性酸素に対抗し除去を促す作用があると考えられている物質を抗酸化物質といいます。

酸化ストレスが増える原因、
どうして不妊につながるの?

酸化ストレスは基本的に《体に良くないこと》をすることで増えていきます。
【飲酒】【喫煙】【睡眠不足】【不適切な食生活】【肥満】【運像不足】【過度な運動】などが代表的な例になります。
これらの生活習慣が蓄積することで体内の活性酸素が過剰になり、酸化ストレスが高まります。
体中の細胞が傷害を受けるようになり、女性側では卵子、男性側では精子にも悪影響が出てくるようになり、妊娠しづらくなる原因につながります。
特に、昨今の研究で、酸化ストレスに暴露された精子は、【精子運動率の低下】【精子頭部のDNA損傷】につながることが解明されつつあり、結果的に【受精率の低下】【妊娠率の低下】【流産率の増加】を招きやすくなると言われています。

バランスが取れている状態

活性酸素が過剰になり、酸化ストレスが高い状態

酸化ストレスに強くなる・具体的な治療法は?

一般的な治療方法

生活習慣の見直し

まずは生活習慣を振り返り、当てはまる項目は見直し・改善してみましょう。
特別なことはなにひとつありません。
また、生活習慣の見直しは、不妊治療だけでなく、これからの人生を長く豊かに過ごすためにも必要なことです。

酸化ストレスの原因
  • 喫煙
  • 多量の飲酒
  • 肥満
  • 睡眠不足
  • 過度な運動
  • 紫外線
適切な生活習慣
  • 禁煙
  • 適度な飲酒
  • 食事の見直し
  • 適切な睡眠
  • 適切な運動
  • 日焼け対策

食事やサプリメントによる抗酸化物質の摂取

生活習慣を見直しても、長年蓄積された酸化ストレスがすぐになくなるわけではありません。
また、不妊治療は、時間(年齢)との闘いでもあります。
少しでも酸化ストレスをより早く軽減・これ以上蓄積させないために、不足している抗酸化物質を食事やサプリから補うことが可能です。

ビタミンC ピーマン(赤・黄色)、ブロッコリー、キウイフルーツなど
ビタミンE* ほうれん草、ブロッコリー、ナッツ類など
*過剰摂取しすぎると骨粗しょう症になりやすくなるという報告があります。過剰な摂取はお控えください。
カロテノイド ニンジン、ほうれん草、ピーマン、かぼちゃ、柑橘類など
ポリフェノール トマト、ブルーベリー、コーヒー、赤ワインなど
コエンザイムQ10 いわし、さば、牛肉、豚肉、ナッツ類

野菜が苦手な方や、お仕事が忙しく外食・総菜などの食事が多い方もいらっしゃると思います。
妊活中の男性に特化したサプリメントなど、当院で処方することが可能です。
もちろん、女性用のサプリメントもご用意があります。
お気軽にご相談ください。

AIHやARTなど生殖補助医療を受けられている患者様への治療方法のご提案

AIHの場合は、お預かりした精子をよりよい状態に調整して使用すること、ARTの場合は、採卵できた卵子・精子共に良好な状態で体外受精・顕微授精に使用することが重要とされています。
普段体内に存在している卵子・精子にとって、私たちが普段生活している空間(光・気相など)は、あまりいい環境ではありません。
そのために、卵子や精子は培養器と呼ばれる体内環境に近づけた機械でお預かりし培養しています。
ただし、配偶子を操作する際は、培養器から一度外の環境へ出さざるを得ないため、酸化ストレスの原因物質に曝される機会が増えます。
当院では、少しでも外的ストレスから配偶子を守るために、より最適な培養器や培養液などを検討し、患者様おひとりずつに合わせた受精・培養方法を選択しています。

当院では、培養液の選択肢のひとつとして、Vitrolife社の抗酸化剤入りの次世代培養液 【Gx-Series™ 】を使用しています。
Gxシリーズでは、従来の培養液に比べ、より多くの抗酸化剤が添加されています。

★ 特に精子の調整は、大気層下で長時間にわたって行うため、AIHおよびARTに使用する精子調整液は全症例【抗酸化剤入り培養液】を使用しています。

特に効果があるとされている男性不妊の方
  • 酸化ストレス陽性の患者様
  • 男性不妊(乏精子症、精子無力症など)の患者様
  • 精子DNA損傷を指摘された患者様
  • 35歳以上の患者様
精子に対する期待できる効果
  • 精子運動率の上昇
  • DNA損傷を防ぐ
  • 調整中に発生する酸化ストレスからの保護

★ ART患者様には採卵からタイムラプスで長期間胚培養をする際に、トータル的に抗酸化剤入り培養液を積極的に使用しています。

特に効果があるとされている女性不妊の方
  • 38歳以上の患者様
  • 胚盤胞のグレードが低い患者様
  • 反復して凍結胚ができない患者様
培養液を使うことで受精・分割に対する期待できる効果
  • 初期胚の分割率、胚盤胞形成率を改善
  • 胚盤胞の細胞数の増加(良好胚盤胞が獲得できる)
  • 卵子の染色体構造を改善し、胚のアポトーシス(細胞死)を減少

胚盤胞を得るためには、患者様にとって適切な卵巣刺激法を選択して良好な卵子を得ることと質がいい精子を体外受精または顕微授精に使用することが重要ですので、ご夫婦の状態に合わせて、毎周期ごとに培養液や調整方法を検討しています。